SS 「worldend」-Ⅴ

やっと今回で終わりです。
最後の力を振り絞って書きました。
前回はこちら




それから一週間がたった。
皆、いつも通りの日々を過ごしている。
ネコゾンビも、私を気遣ってかクラウスの話はしない。
最初から、クラウスなんていなかったみたいに。

私も、彼の部屋の前を通る時は、なるべく早足で、
見ないようにして通り過ぎた。
うっかり立ち止まってしまったら、悲しみで身動きがとれなくなって
しまうだろうから。

でも、今日は違った。
なぜだか心が軽い。これがネコゾンビの言っていた、
忘れるということなのだろうか。

クラウスの部屋の前に立ってみる。
不思議と気持ちが楽だった。
ドアを開けたら、そこにクラウスがいるような気がしたから。

ドアを開けて、中に入ってみる。

クラウスがいたときのままの状態で、部屋は残されていた。
しかし、新しい客が来ればこれも片付けられてしまうのだろう。

ベッドの布団も、彼がさっきまでそこで寝ていたかのような
状態で残っていた。
一瞬ためらったが、彼の枕に頭をうずめてみる。

まだ、匂いが残っていた。

抱きしめてくれた時の、首すじのにおい。

またきつく胸が締め付けられる。


もう二度と、彼が自分を抱きしめてくれることはない。
もう決して、彼が私の髪をやさしくなでてくれることもない。
もう絶対に、彼の温度を感じることは、ない。


ふと、本棚に目をやると、色々な本が並んでいた。
そういえば、よくここで本を読んでたっけ・・・

おもむろに一冊抜き出し、パラパラとめくってみる。
ところどころ、ページの端が折られている。

このページのどの言葉が、彼の心に残ったのだろうか。

彼の椅子に座って、机に向かって読み始める。


しかし、このページにどうして印がつけられているかを
わたしが知るすべは、永遠にない。
彼はもう、戻ってこないのだから。

本をかたわらに置き、私は泣く。


「どうして・・・・・どうしていきなりいなくなっちゃったの・・・・?
 眠れないなら、私に一言言ってもらえれば、ずっとそばにいて、
 子守唄をうたってあげたのに・・・・・・・
 あ、でもそれじゃ逆に眠れないか・・・・・・・・・

 とにかく、クラウスは自分勝手な大馬鹿だよ・・・・
 だって、勝手に私を引き止めといて、自分だけいなくなっちゃうなんて、
 ずるいよ・・・・・・・・

 私だって、クラウスにそばにいてほしかったのに・・・・・・・・・

 ずっと一緒にいられると思ってた。
 また私、疫病神になっちゃうの・・・・・・・?
 置いていかないで・・・・・・・・一人にしないで・・・・・・・・・・・・・」


そもそも、私がクラウスを忘れるなんて、最初からできっこないのだ。

グレゴリーハウスに来たばかりのころ、
文字通り死人のようなひどい顔色をして、ふさぎこんでいた私を
元気づけてくれたのは、クラウスだった。

最初は確かにうっとおしかったが、
だんだん打ち解けてくるにつれ、案外ここに来たのも
間違いじゃなかったかもと思えるくらいには
幸せな日々を送れていたんじゃないかと思う。

この前までの元気な私は、彼なくしては存在していなかったから。


そう思うと、なんでもっと早く自分から相談にのってあげられなかったのかと
後悔の念がますます強くなる。
彼にもらったものを、私は何一つ返せていないのに・・・・・












後ろのドアが音もなく開く。
しかし、ドアを開けた者の姿はない。
泣きじゃくっているマリアはそのことに気づかない。

それはゆっくり、気づかれないようにマリアの後ろに回り込む。




「だーれだ?」




ふいに、視界が誰かの手でさえぎられる。
誰・・・・・・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・もしかして、でもそんなことあるはずがない。




「もう一週間も会ってないから、忘れちゃったか・・・・・・」





うそだ・・・・・・これは夢?
夢なら一生さめなくてもいい。

この手の温かさは、忘れもしない、




「クラウス・・・?クラウスなの?」











長い沈黙の後、それは答えた。









「・・・・・・・・・・ただいま、マリア。」



振り返りたかったが、振り返れない。
もし振り返ったら、たちまち彼は消えてしまうだろうから。


そのままの状態で5分ほどが過ぎただろうか。


もう意を決して振り返ることにした。
もし彼がいなくとも、これは夢だったと納得できる。




彼の手をはずし、ゆっくりと振り返ると・・・・・・・・




そこには微笑を浮かべて立っているクラウスの姿があった。

透けていないし、足もちゃんとある。
試しに、彼のほっぺたをつねってみる。


「痛っ!・・・・ちょっとくすぐったいよ・・」


ふにふにしている。思わず笑ってしまった。

次は・・・・・・みぞおちにストレートをたたきこむ。


「ごふっ・・・・・・・・・・・!」


ちゃんと効いたようだ。手ごたえもあった。


「何するんだよ!」
「いや、幽霊に物理攻撃は効かないっていうから
 試してみようと思って。」
「あのねえ・・・・幽霊にだって物理攻撃は効くの。
 あれはただの迷信。」

「へー、そうなんだ。知らなかったよ・・。
 でも、どうして戻ってこれたの?」

「どうしてって・・・・・・・・それは・・・・・・・・・
 ずっと真っ暗なところに寝てたら、 
 誰かの泣き声が聞こえたんだよ。 
 その方向に走っていったら、戻ってこれた。」

「遅い!ずっと待ってたのに・・・・・」
「ごめんごめん。ちょっと転んじゃってさ・・・・」


「遅れたバツとして・・・・いや、そうじゃなくても約束して。
 もうどこにも行かないで。私のそばにいて。」

「・・・・・・・うん。こんな幽霊でもよければ。」

「約束だよ?」


クラウスは返事のかわりに、マリアをきつく抱きしめる。

こんなこと、二度とないって、さっきまで思ってた。

試しに彼の胸に耳を当ててみる。

心臓は規則正しくトク・・・・・トク・・・・・トク・・・・・・と動いている。




「本当に、生きててよかった・・・・・」
「いや、もう死んでるけど・・・」
「じゃあ、死んでてよかった・・・・・・」
「いや、それもちょっと・・・・」






部屋の外にいたネコゾンビが、ぽつんとつぶやく。


「僕も、大切なことを忘れていたみたいニャ。
 
 『この世界は、思いの強さがすべて』

 自分で言ったのに、僕はその本質をちっともとらえられて
 なかったニャ。
 いい勉強になったニャ。

 ありがとう・・・・・クラウス・・・・・・・マリア・・・・・・」




そう言って、彼は暗い廊下を歩いていった・・・・




Fin.



あとがきはこちら




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック